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【SS】 神様にねがったら、幼馴染が二人に増えてしまった

スレタイ:神様にねがったら、幼馴染が二人に増えてしまった

かたつむり速報(むり速)@2ch



1:名無しさん:2014/03/28(金)22:02:15 ID:BsxWI0Ga1
僕ら人間は神様から『ねがい』をもらうことができる。

 もちろん、みんながみんな『ねがい』をもらえるわけじゃない。

 ひとつの家族につき、ひとり。
 多くてふたりぐらい。
 うちの家族だと、最初に『ねがい』をもらったのは妹だった。
 
 もっとも僕は彼女の具体的な『ねがい』がなんなのか知らない。

 僕も神様から『ねがい』をもらった。
 十九歳になる三日前のことだった。
 そうして、僕は『ねがい』を使った。


 幼馴染をひとり、文字通り増やしてしまったんだ。



3:名無しさん:2014/03/28(金)22:06:03 ID:BsxWI0Ga1
いちおう言い訳させて欲しい。

 こんなことになるなんて、夢にも思わなかったんだよ。
 
 べつに『ねがい』を信じなかったわけじゃない。
 ただ、こんなムチャクチャな『ねがい』が叶うなんて、予想できなかった。
 そもそも神様からもらえる『ねがい』っていうのは、人それぞれバラバラらしいんだ。

 『ある人の気持ちを少しだけ変える』とか。
 『ほしいものをひとつだけ手に入れられる』とか。
 『嫌いな食べ物を一個だけ好きになれる』とか。

 僕の場合はとても曖昧な『ねがい』だった。

 『人をひとりだけ復活させられる』っていう『ねがい』だった。
5:名無しさん:2014/03/28(金)22:11:06 ID:BsxWI0Ga1
神様から『ねがい』をもらったと認識するのは、本当に唐突なんだ。
 気づいたら、『ねがい』を神様からもらったと認識している。
 その『ねがい』の内容まで、いつの間にか知っているんだ。


『ひとりだけ復活させられる』


 おそらく、この『ねがい』は相当価値があるはずだ。

 だってそうだろ?

 ようは死んでいる人間を生き返らせることができるんだから。
 だけど僕にとっては、なんの価値もない『ねがい』だった。

 もちろん会いたい人はいたよ。

 でも、死者を生き返らせるってことに僕は強い嫌悪感を抱いていた。
6:名無しさん:2014/03/28(金)22:17:52 ID:BsxWI0Ga1
だから僕はその『ねがい』を、このまま使わないでおこうと思った。
 もらった『ねがい』は、使わなければ二十歳になるまでには消失するらしいし。

 でもやっぱり、もったいないなって思った。
 せっかくもらえたものだ。
 使ってみたいって思うのが人情だ。

 僕は少しだけ考えてみた。すぐに浮かんだ。

 真夜中の冬のベランダ。
 そこで僕は星を眺めながら、その『ねがい』を口にした。
 群青色の空はあまりに透き通っていて、星の輝きがいつもよりまぶしく見えた。


『オレを好きだったころの幼馴染を復活させてほしい』


 言ってから自分で笑ってしまったね。

 なんてバカな『ねがい』なんだろうって。
 誰にも聞かれているわけもないのに、思わずキョロキョロしてしまった。
8:名無しさん:2014/03/28(金)22:21:36 ID:BsxWI0Ga1
そのあとは何事もなかったようにベッドに入った。
 『ねがい』っていうのは、効果がきち◯と発揮されないと使ったことにはならないそうだ。
 だから『ねがい』は叶わずに、なにごともなく終わると思った。

 まどろみが訪れるころには、完全に『ねがい』のことは忘れていた。


 正直神様を侮っていたんだ、僕は。


 太陽の光がカーテンのすき間から入ってくる頃、僕はそのことを知った。
9:名無しさん:2014/03/28(金)22:26:08 ID:BsxWI0Ga1
「起きてってば」

 声が上からふってくる。
 最初は夢でも見てるのかと思った。
 布団にくるまっている僕をゆするのは幼馴染だけだったから。

 布団の中に入っている状態でゆすられるというのも、一年以上経験してなかった。
 僕の幼馴染について少しだけ説明する。

 世話好き。
 礼儀正しい。
 周囲の信頼も非常に厚い。
 まるで、漫画にでも出てきそうな幼馴染。

 僕の人生で一番自慢できることと言ったら、彼女と幼馴染であるっていうことかも。
10:名無しさん:2014/03/28(金)22:31:00 ID:BsxWI0Ga1
彼女と僕は幼稚園のころからの付き合いだった。
 高校一年の夏頃まで、持病があった僕を両親や妹と一緒に面倒を見てくれたんだ。

 面倒見がよすぎて、僕以上に僕のことに詳しかったかもしれない。

 幼いころには結婚の約束こそしなかったけど……キスしたこともあった。
 ほっぺにだけど。
 僕の母なんかは特に彼女のことを気に入っていた。

 なにかと理由をつけて僕との結婚を勧めた。

 その度に顔を赤くする僕は、よく妹にからかわれたな。
 そう、彼女は僕の妹ともすごく仲がよかったんだ。
 近所の人たちから姉妹みたいだってよく言われてたよ。
11:名無しさん:2014/03/28(金)22:34:04 ID:BsxWI0Ga1
でもまあ結局、僕と彼女は付き合うことさえなかった。
 それどころか高校生活が終わるころには、会話そのものが珍しいものになっていた。


「なにをそんなにビックリしてるの?」


 だから布団から顔を出したときは、夢でも見てるのかと思ったよ。
 寝起きで状況がつかめない僕を見て、安心したように笑ったんだ。
 彼女が。幼馴染のハヅキが。


「なんでハヅキがオレの部屋にいるの?」


 僕がそう聞くとハヅキは困惑ぎみに、
 「わたしが聞きたいよ」って眉を少し曲げてみせた。

 なぜか僕の知っている彼女より少し幼く見えた。
12:名無しさん:2014/03/28(金)22:38:42 ID:BsxWI0Ga1
ハヅキは記憶を探るように話しはじめた。

 気づいたら僕の部屋にいたらしい。


 それまでの記憶が曖昧で、とりあえず眠っている僕を起こすことにしたそうだ。
 手振り身振りを交えて話すハヅキを見ているうちに、記憶にかかったモヤが晴れていく。
 不意に僕は『ねがい』を思い出して、声をあげそうになった。


「どうしたの?」

「いや……」


 途中から感じていた違和感の正体に気づいたんだ。
 ハヅキが妙に幼く見えた理由もわかった。
13:名無しさん:2014/03/28(金)22:43:04 ID:BsxWI0Ga1
僕はハヅキにことわって、その場で電話をかけた。
 休日の早朝にも関わらず、電話の相手はすぐに出てくれた。


『もしもし』

「もしもし。ハヅキだよね?」

『そうだけど……こんな朝早くにどうしたの?』


 電話越しに聞こえた声は、目の前で正座している女の子と同じ声だった。
 目の前のハヅキが僕を見て首をかしげた。

 まあ当たり前の反応だ。

 僕は適当なところで彼女との会話を切って、改めてハヅキを見た。
17:名無しさん:2014/03/28(金)22:47:58 ID:BsxWI0Ga1
どうしてハヅキが幼く見えたのか。


『オレを好きだったころの幼馴染を復活させてほしい』


 神様は僕の『ねがい』を叶えてしまったんだ。
 叶うと思っていなかった『ねがい』が叶ってしまった。
 持病が治ったとき以来じゃないかな、ここまで混乱したのは。


「ごめんちょっと待ってて!」


 僕はいったん顔を洗って状況を整理しようと思った。
 ハヅキの返事も聞かずに僕は洗面所に駆けこみ、そのまま顔を洗った。

 たぶんこのときの僕の感情は、本当にチグハグしたものだったんだ。
18:名無しさん:2014/03/28(金)22:54:46 ID:BsxWI0Ga1
そもそもこの『ねがい』って、ハヅキが僕を好きじゃなかったら成立しなかったわけだ。
 だから素直に嬉しかった。

 僕がハヅキに向けていた気持ちを、ハヅキも僕に向けていてくれたんだから。
 でも同時に、ショックなことにも気づいた。
 
 僕の前に現れたハヅキは、今のハヅキよりも幼い。
 つまり今の彼女は、僕のことを好きじゃないってことだ。
 
 洗った顔をタオルで拭いて、鏡に映った自分の顔を確認する。
 眉間にはやたらシワがよってるくせに、口もとは妙に緩んでいる。
 失敗した福笑いみたいな顔が、鏡の向こうにあった。
19:名無しさん:2014/03/28(金)22:59:22 ID:BsxWI0Ga1
顔を洗って思考がクリアになると、おのずと僕は自分が直面している問題に気づいた。

 状況を飲みこめていないハヅキを連れて、僕は家を出た。
 途中でハヅキがいろいろ聞いてきたけど、とにかく家を出ることを優先した。

 ある意味、今日『ねがい』が叶ったのは幸運だった。

 母親は夜勤で、まだ家に帰ってきてなかった。
 父親はとっくに仕事に出ている。
 妹は妹で、友達の家に泊まっていた。

 おかげで誰にもハヅキを見られずにすんだ。
20:名無しさん:2014/03/28(金)23:07:26 ID:BsxWI0Ga1
僕は今の状況をいちおう自分なりに把握しているつもりだった。

 まずいことが起きている、と。

 冬の町はあたり一面霜に覆われていた。

 冬の冷気が服越しに肌をつついてくるのに、不思議なことに寒さをあまり感じなかった。
 身につけていたコートが重く感じるぐらいだった。
 家を出た僕は、すぐにタクシーを捕まえることに成功した。


 そのまま最寄駅まで乗せてもらい、ハヅキといっしょに無人改札をくぐる。
21:名無しさん:2014/03/28(金)23:11:49 ID:BsxWI0Ga1
「ねえ。いいかげんなにが起きてるか、説明してよ」


 ハヅキの質問に対しては「オレもよくわからない」とはぐらかした。

 状況を説明できるなら、僕だってすぐしていたよ。
 でも、するわけにはいかなかったんだ。

 『ねがい』を使った人間には、守らなければいけない約束がある。
 『ねがい』を使ってからは、それの内容について話すことは禁止されているんだ。
 『ねがい』について誰かに話すと。
 なんらかの災いが起きると、僕らは幼いころから教えられていた。

 具体的にどんなことが起こるのかは知らない。

 『ねがい』を使う前なら話してもいいらしい。
 だけど、それだってリスクは低くない。
23:名無しさん:2014/03/28(金)23:17:52 ID:BsxWI0Ga1
だから『ねがい』をもらっても、秘密にする人は全然珍しくないんだ。

 特に僕の場合は、ハヅキに事情を話すこと=『ねがい』の暴露だったからなおさらだった。

 くたびれた駅の小さなホームには、僕とハヅキしかいない。
 錆びれたベンチに座る僕らの間には、溝でもあるかのように少しだけ距離があった。

 沈黙がつめたい風にかわって僕らの間をすり抜ける。
 隣にいるハヅキがなにを考えているのか、まったくわからなかった。
 でもそれは、ハヅキも同じだったんだろうね。

 結局電車が来るまで、僕らは一度も口をきかなかった。
24:名無しさん:2014/03/28(金)23:24:32 ID:BsxWI0Ga1
列車が甲高い音とともにゆっくりと動き出す。

 二年ぐらい前までは、ハヅキと電車に乗って学校に通うのがあたり前だった。
 田舎の電車でも、朝は人でいっぱいになるんだ。
 僕らはつり革につかまって、小声でよく話をしてた。

 女子にしてはハヅキは背が高かった。
 僕は男子にしては背が低かった。加えて猫背ぎみだった。
 僕とハヅキでは、彼女のほうが背が高かったんだ。


 だから僕は電車に乗るたびに、密かに彼女と背比べをしてた。

 大学生になるころには、まあまあ身長は伸びてたけど。

 でも今の僕が、今のハヅキより背が高いのかどうかはわからない。
25:名無しさん:2014/03/28(金)23:28:07 ID:BsxWI0Ga1
電車が大きく揺れると、となりにいるハヅキの肩と僕の肩が接触した。

 そういえば、座ってふたりで並ぶのは初めてかもしれない。
 そのことに気づいたときには、口が勝手に動いていた。


「はじめてだな」

「なんの話?」


 ハヅキの顔が僕のほうに向いた。
 会話のきっかけってホント、ささいなことなんだな。

 たぶん、僕がハヅキの顔を本当に見たのは、この瞬間だったと思う。
26:名無しさん:2014/03/28(金)23:30:39 ID:BsxWI0Ga1
一瞬自分が高校生に戻ったのかと錯覚しそうになった。

 僕の隣にいるハヅキは、間違いなく高校時代の彼女だった。
 人間って唖然とすると、普段出せない声が出るんだ。
 喉から出た、できそこないの口笛みたいな音をごまかすために、僕は早口で言った。


「ふたりで電車に座って乗るの。なにげに初めてだよね?」

「言われてみれば、たしかにそうかもね」

「なんか不思議だな」


 列車の窓から流れていく冬の景色は、実に退屈なものだった。
 窓の外を過ぎていく色あせた田んぼに、アクセントのようにポツポツと佇んでいる民家が混じるだけの風景。
 高校時代、外の景色をろくに見ていなかった理由がわかった気がした。
27:名無しさん:2014/03/28(金)23:36:19 ID:BsxWI0Ga1
「ていうか景色は今はいいでしょ。それよりどこに向かってるの?」

「家だよ」

「家? 誰の?」


 ハヅキが小首をかしげる。

 僕はしまったと内心で舌打ちした。
 僕は自分が思っているよりも、ずっと冷静じゃないらしい。
 「あとで教える」と僕はまたもやはぐらかすはめになった。

 再び沈黙がおとずれる。

 なぜかレールの立てる規則正しい音が救いのように思えたね。
 どうも僕とハヅキの間には、僕が思っている以上に距離があるらしかった。

 ある意味当然と言えば、当然なんだけど。
28:名無しさん:2014/03/28(金)23:43:18 ID:BsxWI0Ga1
二回ほど電車を乗り換えて、僕が今住んでいる町に着いた。


「なにここ……すごい田舎だね」


 ハヅキが目を丸くしてあたりを見回す。
 誰が見ても、ハヅキが初めてここに来たとわかる。

「オレたちが住んでるところと、そんなちがわないだろ」

「そうだけど。さすがに改札がない駅に来たのは初めて」

「開かない扉があってびっくりしてたな」

「知らなかったんだもん」


 ハヅキがくちびるをとがらせる。
 久々に見る彼女の姿に、僕の胸は知らず知らずのうちに高鳴っていた。
29:名無しさん:2014/03/28(金)23:47:19 ID:BsxWI0Ga1
ホームを降りると、僕らは駐輪場へと向かった。


「乗ってよ」

「え?」

「『え?』じゃなくて」

「だって、ふたり乗りするってことでしょ? ダメだよ、そんなことしちゃ」

「だいじょうぶだよ。おまわりさんとか、全然いないし」

「そういう問題じゃないでしょ。わかってる? ふたり乗りっていうのは……」


 基本的にハヅキはまじめなんだ。
 学校なんかでも、規則を破ることとは無縁だった。
30:名無しさん:2014/03/28(金)23:52:16 ID:BsxWI0Ga1
それでも僕はなんとかハヅキを説得した。
 おそらく、僕がここまでハヅキに対して食い下がったのは初めてじゃないかな。


「本当はダメなんだよ? 危ないし……それに、ふたり乗りなんてできるの?」

 心配げな口調。

「大丈夫だって。ほら、いくぞ」

「さっきからなんにも教えてくれないし、なんかいつもと様子がちがうし……」


 そう文句を言いつつも、最後には僕の強引な頼みに折れた。

 自分でも、どうしてここまでふたり乗りにこだわるのか、よくわからなかった。


「それで? どうやって乗ればいいの?」

「オレがこぎだしたら、荷台に飛び乗ればいいんだよ」

「飛び乗るの……?」


 不安げに大きな瞳を揺らすハヅキを見るのは、めずらしいことじゃなかった。
 むしろ、昔は日常茶飯事だったと言っていい。
31:名無しさん:2014/03/28(金)23:55:20 ID:BsxWI0Ga1
結局荷台にハヅキを乗せた状態で、僕は自転車を発進させた。

 ふたり乗りに慣れないハヅキは、僕の背中で悲鳴みたいな声をあげた。
 バランスがうまくとれないらしい。


「お尻痛いし手をどこにやればいいのかわかんないっ!」


 悲鳴混じりの文句が後ろから聴こえてくるのも新鮮だった。
 なぜか笑いがこみあげてきた。


「手は肩にでも、腹でもどこでもいいから。とりあえずどっかつかんで!」


 僕がそう言うと、ハヅキは遠慮がちに肩に手を置いた。
 ペダルを勢いよくこぐ。
 そうすると僕の肩をつかむ握力が強くなるので、調子に乗ってさらにこいだ。
32:名無しさん:2014/03/28(金)23:58:29 ID:BsxWI0Ga1
それまでぎこちなかった僕らの会話は、急に弾みだした。
 ハヅキが声を張りあげる。


「ほんとに二度としないからね」

「なにを?」

「ふたり乗り!」

「なんで? 楽しいじゃん」

「楽しくない!」

「どうして? 風は気持ちいいし、ハヅキは乗ってるだけだかららくだろ!?」


 僕がそう叫ぶと、「ちょっと楽しいけど」と小さな声がした。
 すぐに風にさらわれちゃったけど。
33:名無しさん:2014/03/29(土)00:01:44 ID:6bLsc9NmA
僕も彼女ほどでないにしろ、いい子だった。

 ハヅキにふたり乗りをすすめておいてこう言うのもなんだけど。
 周りの人たちは僕とハヅキを比べて、こんなふうに言っていた気がする。

 ハヅキは『優秀ないい子』。
 僕は『おバカないい子』って。

 生まれたときから極端にからだが弱かった僕だけど、性格はすごい明るかったんだ。
 妙に人懐こくて、ムダにおしゃべり。
 誰とでもすぐ打ち解けられたし、愛想もよかった。
 そのうえ、輪にかけてのんびり屋さんだったな。

 だから周りのみんなは、僕のことをよく世話してくれた。

 小学校高学年にあがるまでは、出席と欠席の日数がほとんど同じだったにも関わらず、
 クラスに自然となじめていたのはハヅキとこの性格のおかげだと思う。
34:名無しさん:2014/03/29(土)00:07:11 ID:6bLsc9NmA
でも今になって思うと、その性格は幼い僕が身につけた天然の処世術だったのかも。

 弱っちい僕が、自分を守るための。
 敵を作らないために身につけた武器とでも言うのかな。

 常にキビキビと行動して、周りを引っ張っていくタイプのハヅキとは真逆そのものだった。
 仮に病気か、この性格のどちらかが欠けていたら。
 僕とハヅキの関係が終わるのは、もっと早かったんじゃないかな。

 中学にあがるまでは、ハヅキは僕の中で姉のような存在だった。

 だけど、ずっといっしょにいるうちに。
 いつしか気づいたら意識してしまう大切な人になっていた。

 ハヅキに頼る僕から、ハヅキに頼られる僕になりたいとねがっていた。

 だけど、高校生活が終わるころには、すっかり僕らの関係は変わってしまった。
 その思いがハヅキに伝わることもなければ、伝えることもできなかったんだ。
 結局、僕らはべつべつの進路を進むことになってしまった。
35:名無しさん:2014/03/29(土)00:11:32 ID:6bLsc9NmA
広がる田園地帯の隙間を縫うように敷かれたアスファルト。
 僕らはそのうえを風といっしょに走り抜ける。

 風は朝露に濡れたアスファルトと土のにおいを含んでいて、少しだけ鼻がむずむずした。


「なんか背中、大きくなった?」

 ふたり乗りに慣れてきたのか、ハヅキが僕の背中を指でつついた。

「そうかもね」

「それに肩も、前よりガッシリしてる気がするし……からだ鍛えてるの?」

「ちょっとだけね!」

「へえ。すごいね!」


 ハヅキが僕の変化に気づいてくれたのが、本気で嬉しかった。
 ハンドルを握る手に、自然と力が入る。
36:名無しさん:2014/03/29(土)00:12:20 ID:6bLsc9NmA
ハヅキと自転車に乗っている。
 それだけで僕には色あせた田舎の風景が輝いて見えたんだ。

 ハヅキが自分の背中にしがみついているってことが、僕にとってはなにより嬉しいことだった。

 頼られてるような気がするんだよ。
 自転車にふたりで乗ろうと言ったのは、思いつきだったけど。

 きっと僕はハヅキとこうすることを望んでたんだろうな。
47:名無しさん:2014/03/29(土)21:18:13 ID:J5d5qY0X8
僕が一人暮らしをするようになったのは、大学生になってから。
 実家からは電車で一時間もかからない距離にあるアパート。

 そんな距離で下宿する意味があるのかと問われると、うなずくのをためらってしまう。
 親に「男なら一度は一人暮らしを経験しておけ」と言われてそうすることにしただけだし。
 でも一時間で帰れるから、わりと高い頻度で帰ってる。


「二度とこんなことしないから」


 ハヅキが自転車を降りて最初に放った一言がこれだ。
 言葉ではそう言ってたけど、ハヅキとは十年以上の付き合いだ。

 彼女が怒っていないことは簡単に見抜けた。
48:名無しさん:2014/03/29(土)21:18:53 ID:J5d5qY0X8
僕の部屋に入るとハヅキはますます困惑したようだった。
 この部屋は誰の部屋なの、という疑問からから次々とハヅキは質問してきた。
 なんとかそれっぽいウソの説明をこころみたけど、ハヅキは当然納得しなかった。

 それでも「わかった」と言ってくれたのは助かった。

 現時点では僕がハヅキの疑問に答えないと、さとったんだろうね。
 それからしばらく僕は、ベランダに出てこれからどうするか考えてみることにした。

 ハヅキにはとりあえず、てきとうに漫画本を読んでもらうことにした。

 でも全然いいアイディアは出てこなかった。
 というより、理性と感情が全然べつの方向を向いていたんだと思う。
 
 考えることを放棄して、僕は今すぐにでもハヅキと遊びに行きたかったんだ。
50:名無しさん:2014/03/29(土)21:20:14 ID:J5d5qY0X8
まったくアイディアは出てこなかった。
 冬の風にさらされたからだは、かわりにくしゃみをよこしてくれた。

 結局十五分もしないうちに、僕は部屋に入った。

 考えがまとまらない理由はもうひとつあった。
 自分の部屋にハヅキがいるということ。
 幼馴染とはいえ女の子を部屋に連れこんでいるんだと思うと、落ち着けない。


「わかった。わかりました」


 なにも事情を話さないだけじゃなく、自分の目の前をうろうろする僕に我慢ができなくなったんだろうね。

「どこかに連れてってよ。近いところでいいから」

 ハヅキはそう言うと、僕の腕をとった。
51:名無しさん:2014/03/29(土)21:21:09 ID:J5d5qY0X8
「どこかってどこだよ?」

「わたしに聞かないでよ。この町はわたしにとっては、未開拓地だし」


 僕が望んでいたことをハヅキが言ってくれたのに、いざ言われると困ってしまう。


「この部屋にいてもなにもないでしょ。ほら」

「そうだけど。いいの?」

「なにが?」

「いや、その……」

「どうせ聞いてもなにも答えてくれないんでしょ。だったら今はいいよ」


 もう一度彼女は同じことを言った。


「どこかに連れてってよ」
52:名無しさん:2014/03/29(土)21:22:32 ID:J5d5qY0X8
どこかに連れてって、と言われても僕の住む町には本当になにもないんだ。

 あるのはのどかな田園風景。
 スーパーと喫茶店。
 それから個人経営のコンビニがいくつか。

 大学が近いのと家賃が格安という理由で選んだ町に、時間をつぶせるような場所は存在しない。

 電車で隣町にでも行くかと聞いたけど、ハヅキは散歩がしたいとだけ答えた。
 理由はあえて聞かないことにした。


 そんな小さなねがいなら、僕でもかなえられるしね。


 最終的に僕たちは、歩いて二十分ほどで着く海に行くことにした。
53:名無しさん:2014/03/29(土)21:23:37 ID:J5d5qY0X8
透き通るような淡い冬の空には、めずらしく雲がなかった。
 太陽の光も穏やかで、散歩には絶好の日だと思ったけど潮風は普段より強かった。


「風、強いね」


 からだを縮こまらせて、ハヅキは言った。


「海が近いから風が強いんだよな」

「今ならまだ引き返せるよ」と僕が言うと、ハヅキは首をふった。

「いいよ、わたしが言い出したことだし」


 ふたりで並んで歩くことに、なぜか違和感のようなものを覚えた。
 久々だからかな、と思ったけどそれもちがう気がする。
54:名無しさん:2014/03/29(土)21:24:46 ID:J5d5qY0X8
「本当になにもないんだね」

「静かで人が少ないことぐらいしかいいところがないからな、ここ」

「わたしは好きだよ。こういうところ」

「オレもきらいじゃないよ」


 海から流れてくる重く冷たい風が、ハヅキの前髪を揺らす。


「寒いのと風が強いのが難点だけど」


 気が利く海風はひときわ強く吹いて、ハヅキと僕を寄り添わせた。


「でもやっぱり好き」

「やっぱり好きだ」と僕もうなずいた。
55:名無しさん:2014/03/29(土)21:25:40 ID:J5d5qY0X8
「背、縮んだ?」

 並んで歩いていて、僕は気づいたことをハヅキに言ってみた。


「わたしが縮んだんじゃなくて、そっちが伸びたんでしょ」

「今はハヅキのほうがチビだな」


 てっきりハヅキは怒るかと思ったけど、なぜか嬉しそうに「そうだね」とほほえんだ。

 どうして怒らないか不思議だった。

 そういえば、ハヅキはチビだった僕に昔から『牛乳を飲め』とうるさかった気がする。
 僕の背が伸びたことが嬉しかったのかな。

 理由はどうでもよかった。
 単純な僕は、ハヅキが笑ってくれるだけで満たされるんだから。
56:名無しさん:2014/03/29(土)21:27:37 ID:J5d5qY0X8
「こうやって並んで歩いてるからかな」

「ん?」

「なんか違和感あるよね?」


 ハヅキも僕と同じように感じていたらしい。
 それだけのことで僕の胸はおどった。
 自分のことながら改めて単純だと思う。


「いつも、わたしのほうが少し前を歩いてたからかな」


 言われて僕は納得してしまった。


「こんなふうに肩が触れることなんて絶対になかったもん」


 のんびり屋だった僕は、いつもハヅキの背中を見て歩いていたんだ。
 そのことを思い出すと、少しだけ僕の歩くペースははやくなった。
57:名無しさん:2014/03/29(土)21:29:07 ID:J5d5qY0X8
道路から海を見おろすとハヅキが声をあげた。

「海だあ」

 ふりそそぐ太陽をあびて、鈍くかがやく海が目の前に広がっていた。


「冬に見る海って少し変わってるかも」


 ハヅキの言ってることは、僕にもなんとなくわかった。
 冬の海は夏のそれに比べると、油を含んでいるように重たげで、波の揺れもよどんで見える。


「海に絵の具の黒を入れたみたいだね」


となりでハヅキが僕を見あげる。

 ハヅキは昔から「~みたい」と微妙な喩えをすることがよくあった。
 彼女がびみょうな喩えを口にするたびに、僕は首をかしげたものだった。
 また懐かしさがこみあげてきて、僕の口もとはゆるんだ。


 「なにがおかしいのよ?」とハヅキがにらんできたので、「全部」と返した。

 口に出したら今度は笑いがこみあげてきた。
58:名無しさん:2014/03/29(土)21:30:21 ID:J5d5qY0X8
ハヅキが隣にいるってだけで、僕は本当に幸せだったんだ。
 そんな僕を見たハヅキも少し顔を赤くしつつも、最終的には笑ってくれた。

 それで僕はまた幸せな気持ちになる。
 幸せが幸せを呼ぶっていうのは、本当なのかもしれないと思ったね。


「そういえば、けっこう前にも冬の海に来たよね」


 道路の柵から身を乗り出してハヅキが言った。
 僕にとってそれは苦い思い出だった。

 高校受験が終わった僕は、ハヅキをデートにさそった。

 ハヅキには詳しい説明はしなかったんだよな、たしか。
「どこかへ連れてってあげる」とだけ言ったんだ。

 なぜ冬に海に行こうと思ったのかって?

 ある曲の歌詞に憧れてたんだよ、僕は。
59:名無しさん:2014/03/29(土)21:32:32 ID:J5d5qY0X8
冬の海辺をあてもなく歩いて、ふたりで貝殻集めて……。


 今でもその曲を聴くだけで顔が熱くなる。

 しかもかなり遠い海を選んだんだよね。
 そのせいで、目的地に着いたときにはお互いに疲れきっていた。
 冬の海って時点でそうとうアレなんだけど、当時の僕はそれを本気でロマンチックだと思ってたんだ。

 海に着いてからハヅキが怒るのには、一分もかからなかった。
 結局僕はハヅキにひたすら謝って許してもらったけど、当時は釈然としなかったね。

 今なら彼女が怒ったわけもわかる。

 かなり遠いところを選んだこと。
 両親に海に行くと伝えていなかったこと。
 ハヅキは病弱だった僕を心配して怒ったんだ。

 そしてこの話にはオチがある。

 ハヅキを海に連れてくきっかけになった曲。
 その曲の歌詞の内容が、失恋に近い状況を描いたものだってことだ。
60:名無しさん:2014/03/29(土)21:34:16 ID:J5d5qY0X8
「前から思ってたけど、ガンコだよね」


「誰が?」と聞き返すとハヅキは、僕を指さした。


「海に行ったときも、最後まで行き先を教えてくれなかったし」


 海を見るハヅキの横顔は楽しそうだった。
 それからハヅキは僕のガンコに関連したエピソードを話しはじめた。

 ハヅキに教えられて、僕は思わず頬をかいた。
 天然でのんびり屋であったはずの僕に、そんなにガンコな一面があったのかと。

「なんだっけ? なにかの映画を見に行こうとしたら『絶対にイヤ』って聞かなかったよね」


 それについては僕も覚えがあった。
 その映画については、タイトルはよく思い出せない。

 けど、病気かなにかで大切な人と死別するって展開があったんだ。

 なぜか、そのことだけは知ってたんだよね。
 だから絶対に見に行きたくない、と僕はハヅキの話を聞かなかった。
61:名無しさん:2014/03/29(土)21:36:32 ID:J5d5qY0X8
僕は『病気で大切な人と死別する話を感動的に描く』みたいな物語が大っ嫌いだった。
 『命をかけて大切な人を守る』といった話にも強い抵抗があった。


 生まれつき病弱だったせいかもしれない。


 バカな僕でも昔からわかってたことがある。
 家族やハヅキ、周りの人にたくさんお世話になって、自分は生きているんだって。


 命を放り出すような真似は本気で許せないって思ってる。


 だから、この先なにがあっても自殺だけはしないって僕は決めていた。
62:名無しさん:2014/03/29(土)21:36:54 ID:J5d5qY0X8
「ほんと、いろいろあったね」

 ハヅキが僕によりかかってくる。


「昔は、こうすることもできなかったよね」

「たしかに。昔のオレなら、このままたおされちゃってるかもな」

「たぶん、立場が逆だっただろうね」


 肩に感じるハヅキの重みが心地よかった。
63:名無しさん:2014/03/29(土)21:38:01 ID:J5d5qY0X8
さらにハヅキは話を続けた。

 幼少期に、病弱だった僕にハヅキがよくしたおでことおでこをくっつけるおまじないの話。
 妹が反抗期になったとき、僕の筆箱に生卵をぶちまけた話。
 ふたりで受験勉強したときのくだらないケンカの話。

 僕が覚えてたことから忘れてたことまで、ハヅキは様々なことを話してくれた。


「わたしのほうがいっぱいしゃべるって、めずらしいよね?」


 どちらかと言えば僕のほうがよくしゃべっていたな、昔は。
 しかも話し好きのくせに、話す内容はまとまりがなかったり、肝心なことは話さない。

 聞き手からすると、最低な話し手だった。

 不意に沈黙が訪れる。さざ波の優しい音。
 潮風が強く吹くと、つられたようにハヅキが口を開いた。

「なんかお互いに変だね」

「うん、お互いに変だな」

 少しして、どちらからともなく笑いだした。
64:名無しさん:2014/03/29(土)21:39:03 ID:J5d5qY0X8
それから僕らは海をあとにして、また歩きはじめた。

 とちゅうで喫茶店によって、コーヒーとランチをてきとうに楽しんで。

 それが終わったらまた散歩して。

 ハヅキはずっと歩き回って疲れたのか、家に戻ると僕のベッドで寝てしまった。
 それから僕は大学の課題をやって、ハヅキが起きるまで時間をつぶした。
 課題にあきたらハヅキの寝顔を眺めて休憩して、また課題をやる。

 ハヅキが起きたら、今度はスーパーに行って買い物して。

 また家に帰ったらふたりで料理して、それを食べて。
 冬の海のような穏やかな時間は心地よかった。

 久々にハヅキと過ごした時間は、あまりにも短かくて。


 ハヅキが寝てからも、しばらく僕は眠れなかった。
65:名無しさん:2014/03/29(土)21:41:16 ID:J5d5qY0X8
背中の痛みで目が覚めた。

 ハヅキの寝姿を確認して、僕は顔を洗いに行った。
 ハヅキの寝顔を見るのも、すごい久しぶりなんだよな。

 この日は、ひとつだけ用事があった。

 ハヅキが起きたあと、簡単な朝食をとった。

 朝ごはんは簡単なものだったけど、ハヅキが作ってくれた。

 ハヅキの作る料理は味が薄いのが特徴で、濃い味が好きな僕の好みとは真逆なんだ。
 だけど、朝ごはんにはちょうどよかった。
66:名無しさん:2014/03/29(土)21:43:02 ID:J5d5qY0X8
「病院に行くって……再発したの!?」


 相変わらず駅のホームは閑散としていて、ハヅキの声はよく響いた。
 僕は首を横にふった。


「病気が治った今でも、検査だけは受けてるんだよ」

「いきなり病院行くって言うんだもん。心臓がドラムになるかと思った」


 かなりびみょうな比喩に、僕は苦笑いした。
67:名無しさん:2014/03/29(土)21:44:06 ID:J5d5qY0X8
病院に行って、血液検査を受けて担当医の診察を受ける。

 ハヅキには外で待ってもらっていた。
 担当の医者は、かっぷくのいい中年のおじさんで、あなたが病院に行けと言いたくなる体型をしている。

 その医者が血液検査の記録を指差す。


「因子もインヒビターも完全に正常です。それから肝臓にも問題なしだね。この三ヶ月で出血はあった?」

「いえ、まったくないです」

「今回の記録はまだ完全には出てないけど、まあ間違いなく問題はないでしょ」


 医者は感心したように言った。
68:名無しさん:2014/03/29(土)21:44:33 ID:J5d5qY0X8
「本来治らないはずの病気が治った、これはほとんど奇跡だ」

「ボクもそう思います」

「神様がきみの日頃の行いを見ていたのかもね」


 医者がカルテになにかよくわからない文字を書く。
 おそらくこの人も、ある可能性を考えているんだろう。
69:名無しさん:2014/03/29(土)21:45:04 ID:J5d5qY0X8
「製剤はまだ家にあるんだっけ?」

「四回分だけ残ってます。半年前にもらったやつですけど」

「半年前だと、まだ小型化されてないタイプかな」

「たぶん」

「今は薬の小型化が進んでてね。つくりやすくなったし、持ち運びも便利になった」

「そうらしいですね。あとすみません、これおねがいします」

「小児慢性の書類ね、書いておくよ。ちなみに来年からはどうするの?」

「……えっと、どうしたらいいんでしょう?」

「まあ、この病気が治るってことが前代未聞だからね。
 今後のことはまた今度来たときに話そう」

「はい。今日はありがとうございました」
70:名無しさん:2014/03/29(土)21:46:20 ID:J5d5qY0X8
病院を出て、僕は大きく伸びをした。
 病院を出ると、ついついやってしまうクセのようなものだった。

「本当に病気のことは大丈夫なんだよね?」

 不安そうに聞いてくるハヅキに、僕は笑ってみせた。

「だーかーら、大丈夫だって。今ならフルマラソンにだって出られるよ」

「それ本当?」

 ハヅキが目を丸くする。
 どうも本気で信じてるっぽい。
 「冗談だよ」と言うと、ハヅキは頬をふくらませた。


 高校一年の夏、僕の持病はなんの前触れもなく治った。
 
 僕の治らないはずの病が、どうして治ったのか。

 どんなに血液検査をしても、その答えは結局判明していない。
 でも僕は知ってるんだ。

 ハヅキが僕の病気を治してくれたってことを。
71:名無しさん:2014/03/29(土)21:47:46 ID:J5d5qY0X8
僕の病気が治ったと判明した前日の朝。
 ハヅキから電話があったんだ。

 病院へ行く日を聞いてきてさ。

 一週間後だって答えると、明日にしてとか急に言い出して。

 わけがわからなかったけど、ハヅキの口調は真剣そのものだったから。
 僕は病院に連絡して、定期検診の日を変えてもらった。

 それで、病院で血液検査を受けたら僕の病が治っていることが判明した。

 僕以上に、医者や看護師のほうが驚いていた。

 そのあともう一度採血を受けて、尿検査とかもやって、
 僕のからだが完全に健常者のそれと変わらないことが証明されたんだ。
 いったいなにが起きたのか、よくわからなかった。

 ハヅキが電話してきて、はじめて僕はある可能性に気づいた。
 ハヅキが『ねがい』を使って、僕の病気を治したっていう可能性に。
72:名無しさん:2014/03/29(土)21:49:59 ID:J5d5qY0X8
思い返してみると、ハヅキからの電話があった三日前ぐらいから妹の様子もおかしかったな。

 どこか落ち着きがなかったというか。
 僕のほうをチラチラうかがっていたというか。

 もしかしたら妹は、ハヅキから相談を受けていたのかもしれない。

 一週間前あたりから、妹は『ねがい』をもらっていたらしいので、
 そわそわしていたのは、僕のこととは全然関係ないのかもしれないけど。

 ハヅキにはその場で結果を伝えなかった。
 会いたいとケータイ越しに言って、直接会ってから病気が治ったことを伝えた。
 僕がお礼を言ったら、ハヅキは泣き出してしまったんだよ。

 それでようやくハヅキが『ねがい』を使ったことを確信できた。 


 正直病気が治ったこと以上に、ハヅキが僕のために泣いてくれたことのほうが嬉しかったな。


 その日は病気が治ったってことで、親も奮発してくれてすごい豪華な夕食になったんだよ。
 僕の家族とハヅキで、派手にお祝いしたんだ。


 『ねがい』を口にするわけにはいかなかったから、事情を説明するのには少し苦労したけどね。
73:名無しさん:2014/03/29(土)21:51:37 ID:J5d5qY0X8
病院が終わると、僕らは電車に乗って街へ繰り出した。

 さすがにあの町で、二日目を楽しむのは無理だろうと思ったからだ。
 あまりお金に余裕はなかったから、そんなに派手には遊べなかった。

 でもやっぱりハヅキがとなりにいるってだけで、僕はむだにはしゃいでいた気がする。
 ハヅキも、子どものようにはしゃぐことがあった。


「そういや、電話の電源ずっと切ったままだったな」


 ふと、家族に無断でアパートに戻ったことを思い出した。
 ハヅキといる時間を誰にもジャマされたくないと思って、そうしたんだ。

 電源を入れると案の定、妹から大量のメールが送られていた。

 最後に来たメールを開く。

 『今すぐ電話しろ!』と非常に簡潔な文面がディスプレイに表示される。

 妹が電話をよこせと言うときは、そこそこ重要なイベントがあるときだった。
74:名無しさん:2014/03/29(土)21:53:00 ID:J5d5qY0X8
「兄ちゃん、なに勝手に帰ってんだよ!」


 電話をすると、いきなり耳をつんざくような怒鳴り声が出た。
 よほど大きい声だったのか、となりのハヅキがくすくすと笑った。

 明日の僕の誕生日パーティーを今日にやるから、今すぐ帰ってこいとのことだった。

 僕ら兄妹はけっこう仲がいいのだけど、立場的には僕のほうが下。


「絶対に帰ってきてよ。ぜぇったいにね!」


 僕が詳しい事情を聞く前にそれだけ言うと、妹は電話を切ってしまった。
 日もかたむいてきたので、僕らはいったんアパートに戻ることにした。


「レミちゃんが帰ってこいって言ってるんでしょ? 
 だったら帰ったほうがいいよ」


 アパートに戻ると、ハヅキはそう言ってくれた。
75:名無しさん:2014/03/29(土)21:54:06 ID:J5d5qY0X8
レミ、というのは僕の妹の名前。
 ハヅキと妹は大の仲良しだった。

「でも……」と渋る僕は、

「遅くても、明日には帰って来れるんでしょ? 
 レミちゃんが帰ってきてって言ってるんだから戻ってあげなよ」


 そう説得されて結局実家に帰ることになった。

 「行ってきます」とハヅキに言ってアパートを出る。
 ボロアパートのドアがバタンとしまると、同時に定時サイレンの音が町中に響きわたる。

 『遠くで響いてる鐘は何かの終わりと始まりを告げている』
 その歌詞がなぜか脳裏をよぎった。
76:名無しさん:2014/03/29(土)21:55:08 ID:J5d5qY0X8
実家の玄関ドアを開くと、妹が満面の笑みを浮かべて出迎えてくれた。
 もとからパーティーとかイベントごとが好きな妹だ。
 だけど、笑顔の理由はそれだけではないと僕は直感した。


「ったく。急にいなくなったから心配したんだよ」

「ごめんごめん、どうしても外せない用事があってさ」

「そうだとしても。連絡はきち◯としなさいっ」


 そう僕を注意する妹の口調は、内容とは裏腹にとても愉快そうだった。

 なにがそんなに楽しいんだろ。
 その疑問の答えは、リビングに入ってすぐわかった。


 ハヅキがいた。
77:名無しさん:2014/03/29(土)22:04:56 ID:J5d5qY0X8
今のハヅキだ。

 台所で母親といっしょに料理を作っているその姿は。

 さっきまで僕のとなりにいたハヅキよりも、大人びて見えた。

 ハヅキは僕に気づくと、


 「おかえり」


 と言ったあとで「その前に久しぶり、が先だったね」とほほえんだ。

 さっきまでいっしょにいたハヅキの笑顔と、
 目の前の笑顔はまったく同じだったのに、なにかがちがうと思った。
84:名無しさん:2014/03/30(日)01:39:47 ID:zCwQUDZi5
そのあとの記憶はひどくあいまいだった。

 誕生日ケーキがチョコケーキだったってこと。
 父が仕事でいなかったってこと。
 妹がつくったピカタが、塩辛かったってこと。

 それぐらいしか覚えていなかった。


 母に「ハヅキちゃんを送ってあげなさい」と言われたので、
 僕はハヅキを今で送っていくことになった。

 家を出たとき、「ふたり乗りしてくか?」と聞いたけど、彼女は首をふった。

 僕も無理強いはしなかった。


「久しぶりだね、こうやってふたりで歩くの」

「そうだな」


 気づいたら、僕は少しだけハヅキのうしろを歩いていた。
86:名無しさん:2014/03/30(日)01:41:17 ID:zCwQUDZi5
「大学はどう? サークルとか入ってるの?」


 ハヅキが僕をふりかえる。
 ハヅキに質問されると、僕の口は勝手に動き出した。
 言葉があふれてくる。

 いろいろなことを話した。
 聞かれたことから、聞かれてないことまで。

 ハヅキはそんな僕の言葉に相槌をうってくれた。


「からだのほうはいいの?」

「病気のこと?」

「うん。今でも病院には行ってるんでしょ」

「検査のためにな。今はおかげさまで、なにもないよ」


 「じゃあもう、おまじないはいらないね」とハヅキがちいさくつぶやく。
 冷たい風が僕とハヅキの間をすっとすり抜けた。
87:名無しさん:2014/03/30(日)01:42:08 ID:zCwQUDZi5
「ここまででいいよ」


 ハヅキがちょうど街灯のあたりで立ち止まった。
 頼りなく揺れる灯に照らされるハヅキ。

 今のハヅキはやはり『彼女』とはちがった。


 化粧そしているとか、髪を染めたとかそういうことではなくて。
 身にまとう雰囲気が全然ちがったんだ。
 気づいたら声が出せなくなっていた。

 喉の奥で言葉がつかえて出てこなくなってしまった。

 なにか言わなければいけない。
 そう思えばそう思うほど、喉と胸が痛いほど締めつけられた。

 ハヅキはハヅキでなにも言わなかった。
88:名無しさん:2014/03/30(日)01:42:56 ID:zCwQUDZi5
とまどいが沈黙にかわって、僕らに重くのしかかる。

 「今日はありがと」とようやく言葉を搾り出せた。

 ハヅキはひかえめにわらった。


「どういたしまして。今日はたのしかった」


 結局僕は、言わなければいけない言葉を見つけることができなかった。
 ハヅキの影を見送って、僕は自分の家に帰った。
89:名無しさん:2014/03/30(日)01:43:53 ID:zCwQUDZi5
「久々にハヅキちゃんといっしょに過ごせた感想は?」

 家に帰ると妹がニコニコして聞いてた。

 僕は感謝の言葉を言ったけど、やっぱり気持ちって顔に出るんだな。
 レミはため息をついた。

「やっぱりあたしもついてくべきだったかな」

「お前が来たら、よけいに台無しになるだろ」

 そう言ったけど、正直そうしてもらえばよかったと後悔していた。


「いいんだよ。今日はひさびさにみんなで過ごせたんだ。楽しかったよ」

「あたしの誕生日のときは期待してるよ」

 レミがウインクしてきたので、僕は軽く小突いてやった。
90:名無しさん:2014/03/30(日)01:44:51 ID:zCwQUDZi5
ふと僕は気になったことを聞いてみた。

「お前って『ねがい』、使ったの?」

 僕の妹は天真爛漫な性格をしているけど、バカじゃない。
 だからあえて聞いてみた。

「んー、なんで今そんなことを聞く?」

「なんとなく」

 少しだけレミは考えたようだけど、
 「秘密」とだけ言って、リビングにひっこんでしまった。

 どうしてレミに『ねがい』について聞いたんだろ。


 自分でもよくわからなかった。
93:名無しさん:2014/03/30(日)01:52:15 ID:zCwQUDZi5
次の日、僕は始発でアパートに戻った。
 昨日のハヅキのことは頭のかたすみに残っていたけど、極力考えないようにした。


「ハヅキ?」


 てっきり眠っているだろうと思ったハヅキは、テレビを見ていた。
 ハヅキの首がゆっくりとこちらを向く。
 彼女の目は赤く充血していた。

 ここにきて、僕はようやくハヅキの様子がおかしいことに気づいたんだ。

「どういうことなの?」

 ハヅキの声はふるえていた。


「わたし、どうなってるの?」
94:名無しさん:2014/03/30(日)01:52:28 ID:zCwQUDZi5
今日はここまで
95:名無しさん:2014/03/30(日)01:52:52 ID:jHapMJHoa
超こわい
96:名無しさん:2014/03/30(日)01:53:30 ID:KBe16yfgt
気になる
97:名無しさん:2014/03/30(日)01:55:46 ID:GjQNkwMUa
げんふうけいの人っぽいと思ったがちがうのか
引用元【おーぷん2ちゃんねるニュース速報(VIP)】神様にねがったら、幼馴染が二人に増えてしまった
http://hayabusa.open2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1396011735
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